最高裁判所第三小法廷 昭和29年(オ)431号 判決 1956年4月03日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
本件において、被上告人は、(イ)、上告人に対する一〇八七円及びその利息を支払うべき債務の担保として、本件(一)の不動産の所有権を上告人に譲渡し、移転登記をしたが、右債務はすでに弁済によつて消滅し、従つて右担保権もまた消滅したものとして、被上告人のため、(一)の不動産に対する所有権移転登記手続を請求し、なお、(ロ)、本件(二)及び(三)の不動産につき抵当権設定登記の抹消登記手続を請求し、上告人は、(ハ)、反訴として、被上告人に対し不法行為による損害賠償の請求をなしたものである。そして原審は、(イ)の請求に対し(一)の不動産については譲渡担保が設定せられたことを認めたが、ただ被担保債権は一、〇八七円及びその利息ではなく、五、二〇〇円余であると認定し、かつ右被担保債権の全部につき未だ弁済がなされていないから、担保は消滅せざるものと判断して、結局被上告人の請求を排斥し、(ロ)及び(ハ)の請求に対しては、上告人を敗訴せしめた。そこで本件上告理由を見るに、すべて上告人が勝訴した被上告人の(イ)の請求につき、原審がなした判決理由中の判断を攻撃するにとどまり、上告人が敗訴した(ロ)及び(ハ)の請求に対する不服でないことが明らかである。そして所有権に基く登記請求の訴についてなされた判決の既判力は、その事件で訴訟物とされた登記請求権の有無を確定するにとどまり、判決の理由となつた所有権の帰属についての判断をも確定するものではないから(昭和二八年(オ)第四五七号、昭和三〇年一二月一日第一小法廷判決参照)、上告人は本件において(イ)の請求につき敗訴しても、なお、自ら訴を提起し又は相手方の請求に応訴することによつて、(一)の不動産の所有権が自己に存することを主張して争うことができるのであるから、所論は結局上告の前提たる利益を欠くものと云わなければならない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 本村善太郎 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)